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三重県上野森林公園 所長 神名清文さん
自然をいかしたまちづくりを公園から発信したい
伊賀ならではの特長が満載 里山の自然が残る公園
「昔はこの辺りに柴刈りに来ると、踏まずに歩くのが難しいくらい松茸が生えていたそうです。松茸は赤松の根元で乾燥した場所によく生えるので、当時は薪にするために落枝がよく拾われ、土が乾燥していたのでしょう。今は残念ながら笹が茂って松茸は生えませんが(笑)。園内にはため池のほか、田んぼの跡もあり、ここが人の暮らしと共にあった里山だったことがわかります」と話すのは、伊賀市友生にある三重県上野森林公園の所長を務める神名清文さん。所長として2018年の7月に赴任し、園の管理やイベントの統括、県や外部との交渉作業など、日々様々な仕事をこなしている。
総面積が約52haにも及ぶ同園。伊賀の多くで見られる古琵琶湖層の粘土質の地層から、湿地や池が多く、希少な動植物も見られる。「サギソウ」の群生や日本最小のトンボ「ハッチョウトンボ」、「ササユリ」といったものから、エナガやコゲラといった野鳥、タヌキやイタチのほか、整った自然環境でしか見られないキツネなども生息しているという。「ここは土壌の特性から樹木はある程度の大きさになれば枯れてしまい、また新しい木が育つ、自然に再生を繰り返している森です。サギソウ以外にも湿地には多くの動植物が見られ、目を凝らすと足元にモウセンゴケがあったり、ミクロの世界が広がっているのも見どころですよ」と公園の特長について神名さんは話す。
楽しく快適に、景観を大切にした公園づくりを
子どもから大人まで楽しめるイベントを考案
看板一つとっても周りの風景に馴染むような、景観を大切にした公園づくりを目指している神名さん。園路や見どころを案内する看板は手描き風で優しいタッチのものに替え、数も増やした。また、リラックスしながら公園を利用してもらおうと、ハンモックが吊るせる場所を整備し、ハンモックのレンタルを実施。ほかにも、自然の中でできるいろいろな楽しみを提案したいと、子ども用のトランポリンを設置したり、野鳥観察用の双眼鏡やザリガニ釣りの竿の貸し出し、休憩用のテーブルやイスの増設なども行ってきた。これまで行ったイベントは、幼児向けの年間プログラム「てくてく探検隊」や親子で楽しめる自然素材を使ったワークショップ、星や昆虫、野鳥の観察会などで、月に数回実施してきた。「これからは、もっと大人向けのイベントにも力を入れたい。園内で秘密基地をつくるような、自分たちで夢を形にしていく小学生向けの年間プログラムも企画したいですね」と新しいイベントにも意欲をみせる。
昨年度はコロナ禍で、ゴールデンウィークは閉園し、イベントも数多く中止せざるをえなかった。そんな中、神名さんはこの公園の意義について考えたという。「コロナ禍で心と体が疲れている方もいらっしゃると思います。そんな方のためにも、自然の中でリフレッシュしていただけるこのような施設が大切なのではと。この施設の役割を改めて考えました」
「自然がある伊賀が好き」 まちづくりの拠点となる施設に
姫路市出身の神名さん。大学卒業後に会社員として働くも、自然関係の仕事に就きたいと、北海道へ。北海道の霧多布湿原センターや埼玉県の国営武蔵丘陵森林公園などで勤務し、まちづくりを支援するNPO活動等にも携わった経験を持つ。
「私は自然とともにある暮らしは、とても素晴らしいものだと思っています。伊賀に住まれている方が『自然がある伊賀が好き』と思っていただけるお手伝いをしたい。当園が自然をいかしたまちづくりを発信する拠点に、次代を担う若者の団体や地元の各種団体の方と協力しながら、いろいろなアイデアを出し合って、まちづくりが発信できる場所になればと思っています」と園の今後の展望について話す。
最後に園のお気に入りの場所を聞くと「サギソウ園です。ここに立つと、湿地の先にため池があり、遠くには市街地も望めます。その中にはお城も見えるんですよ。自然の風景と人の営みが一緒に見渡せる、伊賀のいいところが詰まった景色だと思っています。園にはほかにも見どころがたくさんあるので、ぜひ多くの方に足を運んでいただき、ゆっくりくつろいでいってほしいですね」と笑顔でこたえてくれた。
取材日:2021年3月