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おさきジャム工房 川下裕史さん
島ヶ原の里山の恵み「ボロンボロンジャム」を生産
濃紫色で甘いボロンボロンジャム
「ボロンボロンはブルーベリーによく似ていますが、そのまま食べるとちょっとすっぱい。でもジャムにすると、とても甘いコクのあるジャムになります」と話すのは伊賀市島ヶ原在住の川下裕史さん。島ヶ原で生まれ育ち、現在は農業を主に営みながら、自宅の工房で地元産の果物を使ったジャム生産にも取り組んでいる。川下さんの「ボロンボロンジャム」は、伊賀の魅力ある商品をPRする統一ブランド「IGAMONO」に、昨年認定されている。
「ボロンボロン」は島ヶ原に残る独自の呼び名で「ナツハゼ」のこと。「黒く熟した実が、ボロンボロンとこぼれ落ちそうなほどたわわに実る様子から、この名がついたのでは」と川下さんは話す。ナツハゼは、日本全国の山野に自生する、ブルーベリーと同じツツジ科に属す植物。川下さんによると、昔は伊賀地方でも多く自生していて、島ヶ原では山に出かけたときにつまむ桑の実と同じように、よく食べられていたそうだ。多く自生するのは、日当たりと風通しが良い、きれいに整備された田畑の周辺など。近年は耕作放棄された農地の増加などで、伊賀地域でもその数は減少傾向にあるという。
ジャムに使うナツハゼは、自然に自生しているもののほかに、畑で自家栽培したものを使用。「栽培はかなり難しいですね。自家栽培している木は、25年ほど前に挿し木して成長したもの。いとおしいボロンボロンたちです」と川下さんは笑顔で話す。
安心安全でおいしい! 色鮮やかなジャムを目ざして
工房ではボロンボロンジャムのほかにも、旬の果物を使ったジャムを作っている。夏はブルーベリーやぶどう、スモモ、秋はナツハゼ(ボロンボロン)やキウイフルーツ、冬は柚子や八朔、春はいちご、初夏はラズベリーなどのジャムを作る。ジャムに使う果物は、無農薬で自家栽培したものや近所の方からいただいたもの。安心安全なジャム作りをこころがけているので、材料は果物と砂糖、レモンととてもシンプルだ。果物の特徴をいかしながら、美味しくて色鮮やかなジャムになるよう、果物は皮つきのまま使ったり、煮込む時間を調整したり、工夫を凝らしている。
伊賀の美しい里山と独自の名を残したい
島ヶ原でも『ボロンボロン』と聞いてピンとくるのは、ほとんどが年配の方でしょう。若い世代は、わからない方が多いと思います」と川下さん。昔のように山に芝刈りに出かけることも減り、手入れされない農地も増え、ボロンボロンの存在を知らない世代が増えた。
手入れされた田畑が続く里山、その自然のバロメーターでもあるナツハゼ。昔ながらの呼び名をジャムの名前につけ、「IGAMONO」に応募したのも、この名を多くの方に知ってもらい、伊賀の里山を守りたいという思いからだ。川下さんは若い世代にもこの思いを伝えたいと、小中学生にも課外授業などでボロンボロンをアピールしている。
「お客様から『おいしい』という言葉をかけていただくとうれしい」と話す川下さん。川下さんのジャムは、伊賀市内では「ひぞっこ」や島ヶ原温泉やぶっちゃの農産物直売所で販売されている。昨年作った「ボロンボロンジャム」は発売後まもなく完売。今後はもっと生産数を増やして、より多くの方にこの名と味を届けたいと意気込む。2020年の販売開始は9月頃の予定だ。
取材日 2020年6月