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建築家・ギャラリスト 山本忠臣さん
伊賀から生活工芸品の魅力を発信して20年
建築家、伊賀焼の陶房で培った感性で選んだ、生活工芸品のギャラリー
「ギャラリーで扱うのは、使うことで楽しくて豊かな気持ちになれる、生活工芸品がほとんどです。高価な美術品に価値があると思っていた時期もありましたが、作家の方から生活工芸品の魅力を教わり、次第に自分の価値観が変化していきました」と話すのは、伊賀市丸柱でギャラリーと建築設計事務所を営む山本忠臣さん(47)。
伊賀焼の陶房の次男として生まれ、子どもの頃から父の仕事を手伝っていた。学校卒業後は大阪で建築の設計を学び、大阪の建築設計事務所に勤務。父が体調を崩したことから帰郷し、兄とともに父の仕事を手伝っていたが、兄が後を継ぐことになり、建築家とギャラリストの道を選んだ。2000年には丸柱で「ギャラリーやまほん」を、2008年には京都で「京都 やまほん」を開設。建築と陶芸、二つのものづくりで培った感性でセレクトした作家の展覧会は大好評で、全国各地のファンから熱い支持をうけている。「ギャラリーに並ぶ器や道具などは、私も普段の生活で使っています。木の器でサラダを食べたり、漆椀で味噌汁を飲んだりすると、とても豊かな気持ちになります。漆は使い込むほどに艶が出ますし、時間をかけて育てていく楽しみもあります。忙しい現代だからこそ、そんな楽しみが大切だと思っています」
ギャラリストの経験をいかし、これまでフランスや大阪などで、様々な展覧会の企画を担当してきた。2018年からは史跡旧崇広堂で毎年開催されている、地元の若手作家などの作品を展示即売する「生活工芸展(主催:伊賀市文化都市協会)」の企画を担当。昨年(2021年)は自身のギャラリーと2会場で開催し、66人の作家の作品、約500点の器や道具類を展示した。「若手作家は発表の場が少なく、より多くの方に作家と作品を知っていただきたいという思いからこのイベントを企画しました」と若手作家の支援にも積極的だ。
伊賀の自然からインスピレーションを得て、やすらぎが感じられる設計を
山本さんのもう一つの顔、建築家。これまでに手掛けた設計は、大阪や名古屋、伊賀などの飲食店やギャラリー、住宅など数十軒にも及ぶ。大切にしているのは、自然が感じられる、やすらげる空間創りだ。例えば、ドアの引手を木工作家の作品にすることで、時間の経過とともに艶を増す木の風合いが楽しめる、自然が感じられる空間が生まれるという。
都会での仕事も多い山本さん。商業施設などの近代的な建築に心惹かれることもあるが、伊賀に帰り自然の中を散歩すると冷静になり、自分本来の設計がしたくなるという。「伊賀の自然からインスピレーションを得ることも多いですね。例えば、ススキに当たった日の光を見て、壁をクリーム色に塗ってスポットライトを当ててみようかなとか。僕の設計の根底にあるのは、伊賀の自然の美しさなのだと思います」と微笑む。
伊賀焼、日本の陶芸文化を世界に発信したい さらに新たな夢も
「日本の陶芸は世界でもトップクラス。海外で陶芸を学んでいる方の多くが、伊賀焼や信楽焼について知っています。アフターコロナでやってみたいことは、海外、まずは中国でギャラリーを開設すること。中国はお茶の文化が浸透していますし、器にこだわりを持っている方も多いですから」と話す山本さん。伊賀にも再びインバウンドが増加することを見越し、伊賀でも叶えたい夢があるという。「伊賀・信楽古陶館のような施設を復活させたい。六古窯の一つで、桃山時代から受け継がれてきた伊賀・信楽焼。街中を訪れた外国の方の中には、伊賀焼とその歴史に触れたいと思う方も多いと思います。地元の子どもたちに向けても、日常的に伝統文化である伊賀焼に触れられる施設を残す努力をしたいです」
様々な分野で精力的に活動し、夢を実現させてきた山本さん。昨年(2021年)の11月には「道の駅あやま」に新たな店、自然食品専門店「ロカナチュラルマーケット」をオープンした。店内には無添加ソーセージやアレルギーに対応したお菓子、オーガニック食材が並ぶ。「自分が体調を崩したことで、健康の大切さを実感し、このお店をオープンしました。健康志向というだけでなく、商品の美味しさはお墨付きです。市内の店舗ではここでしか手に入らないものもあるので、一度覗いてみて欲しいですね」と新たな分野への意気込みを話す。
工芸品、建築、食、様々な分野で心が豊かになる、確かなものを届けたいという信念のもと動く山本さん。今後もその歩みに注目したい。 |
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取材日:2022年2月