森本芭蕉堂
伊賀市三田953-7
0595-21-4365
Iga people
伊賀人バンザイ!
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伝統の味を守りながら新しいかたやきに挑戦
「『アン入りかた焼だけは守ってくれ! 』祖父からいつも言われている言葉です(笑)」と話すのは、伊賀市三田に店を構える森本芭蕉堂の5代目 加藤拓真さん。同店の創業は明治30年。かたやき専門店として、今も昔ながらの製法を大切に守っている。看板商品の「アン入りかた焼」は、3代目で祖父の森本昭三さんが試行錯誤の上、昭和55年5月15日に誕生させた商品だ。
「かたやきは人生を変えたもの」と話す加藤さん。幼少期は同店を営む祖父母の家で暮らし、近所に引っ越した後もよくお店に遊びに来ていた。3代目の祖父が高齢になり、店が台風の被害を受けたこともあり、4代目の母は店を畳む決意をした。片づけの手伝いに店を訪れたとき、寂しさと共に長く続いた伝統の味を守りたいという思いが湧き上がった。すぐに勤務先を退職し、店に入った。それから8年、今では5代目として加藤さんが主になり、製造から経営までを担っている。
「会社員時代と違って、販売の難しさや経営方法に悩むことも多いですが、製造から販売までを一貫して行っているので、お客様に購入していただいた時の嬉しさやありがたみはひとしおです。後を継いで良かったと思っています」と加藤さんは笑顔を見せる。
※伊賀名物「かたやき」は、硬く焼き上げたお菓子。日持ちがするので、古くは忍者の携帯食、非常食等であったと言われている。
「昔ながらの素朴なお菓子だが、かたやきは奥が深い」と話す加藤さん。製造方法は主に母から教わった。
一番難しいのは焼きの作業で、約40分間つきっきりで行う。鉄板の上に小さく丸めた生地を並べ、軽く押して伸ばし、ひっくり返すといった作業を何度も繰り返す。生地を押す力加減が難しく、強く押しすぎると潰れてしまう。ひっくり返すタイミングもまた、難しい。季節やその日の天候、気温によって、焼き加減を調整しないと焦げてしまう。生地の水分量も大切で、水分が少ないと表面がざらついてしまう。
「かたやきは長時間焼く中で、硬さと焼き加減を調整していかないといけない。経験を積まないとつくれない、実はとても繊細なお菓子なんです」と加藤さんは製造の難しさについて話す。
加藤さんは伝統を守る一方で、新しい商品開発にも挑戦している。その一つが令和3年2月から販売している「うたかたやき」だ。これは、伊賀市の観光振興を考える市民参加型プロジェクト「観光まちづくり企画塾」の2期生メンバーが企画した「新しい伊賀のおみやげもの」の一つで、加藤さんはメンバーの依頼を受けて開発に取り組んだ。 商品のイメージは、水面に浮かぶ泡のような、はかなさを持つかたやき。その名の通り、従来のかたやきと違って薄く、直径も4㎝程と小ぶりで、パリパリと食べやすい。いろいろな味があり、コーヒー味、ココア味、ゆずしょうが味等に加え、今春(令和4年)の大型連休からは、新たに抹茶味と紅茶味が加わった。さらに箱詰めしたギフト仕様のプレミアムBOXもお目見えした。 「今までにない新しいかたやきの開発ということで、完成まで何度もメンバーと打合せをしました。はかないイメージに合う薄さや硬さ、サイズにするのにとても苦労しました。味に関しても何度も試作を重ねました。私だけでは思いつかないようなアイデアが出ることもあり、この企画への参加はとても勉強になりましたね」と話す加藤さん。この新しいかたやきがコロナ禍の売上の落ち込みの回復につながればと期待を寄せている。 最後にアフターコロナの抱負を聞くと「県外、そして海外の方にもかたやきの魅力を知っていただきたい。忍者の携帯食だった食べ物ということで、海外の方にアピールしていきたい。まずは食べやすい『うたかたやき』から手に取っていただいて、伝統のかたやきにもチャレンジして欲しいですね」と笑顔でこたえてくれた。
※「うたかたやき」は同店のほかに、西町や かかん(三重県伊賀市上野西町3370)、末廣寿司(三重県伊賀市上野忍町2496-2)等で販売。 |
取材日:2022年4月